「軽の安全は大丈夫?」

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「軽の安全は大丈夫?」に回答
軽自動車への質問を多数いただいた中から、今回は、安全について取り上げます。まずは、読者の「ぷろびでんす」さんからの質問をご紹介します。
素朴な疑問です。
軽自動車のプレゼンでは、燃費アピールが最大なのは理解できます。普通車と同等の基準での比較でわかりやすいものです。
では、安全性・車体強度での比較をメーカーとしてできませんか?
当然、車体サイズの制約がある以上、普通車と異なるのは当然です。しかし、燃費については優位性をアピールしながら、強度・安全性では普通車も含めたメーカー側のアピールは避けていますね?
コストも含めた総合的な評価をして購入するためにも、情報を提供していただけないでしょうか?
JNCAPを知っていますか?
読者の「ぷろびでんす」さんと同じように、軽自動車の安全性や、車体の強さなどに対する質問を、たくさんいただきました。その背景に、軽自動車規格という制約がある小さな車体で、万一事故のあったとき、相手が大きなクルマであったら被害が大きいのではないかという不安があると思います。
そこで、燃費比較と同じように、衝突安全について、軽自動車と登録車(軽自動車以外のクルマ)を、同じ基準で比較できないか?という部分に対してまず答えましょう。
日本では、1995年から独立行政法人自動車事故対策機構により、自動車アセスメント(Japan New Car Assessment Program:JNCAP)が開始され、実車による衝突実験に基づいて衝突安全評価が行われるようになりました。これにより、軽自動車をはじめ、コンパクトカー、セダン、ステーションワゴン、ミニバン、SUV、商用車、電気自動車など、あらゆる車種が、「同一条件で衝突試験を受け」、その評価が一般に公開されています。
よく「JNCAPでいくつの星」などと宣伝されているのが、その評価結果です。
つまり、燃費と同じように、同一条件での衝突安全に関する評価はされていて、その情報も公開されているということです。
1998年に、現在の軽自動車規格が定められ、エンジン排気量は従来通りであるのに、車体寸法が大型化された背景には、こうした衝突安全性能の向上が目的としてありました。
では、どのような内容が、JNCAPで審査されているのでしょう?
・フルラップ前面衝突(いわゆる正面衝突を想定)
・オフセット前面衝突(対向車との衝突を想定)
・側面衝突
・後面衝突(いわゆる追突を想定)
・歩行者保護性能(歩行者の頭部などへの損傷)
以上、5項目です。
文末のURLにアクセスし、知りたい車種を入力すれば、結果が表示されます。
ちなみに、ダイハツの軽自動車で、第3のエコカーとして燃費が飛躍的に向上したミライースの場合、総合評価で4つ星の成績です(最高は五つ星:平成22年度までは最高六つ星評価であったため、平成23年度に審査を受けた車種との比較は難しい)。ちなみに、同じ年に審査を受けた登録車(軽自動車以外)のコンパクトカーも、4つ星が中心です。
こうしてみると、軽自動車だけが衝突安全性能が低いとは言えないのがわかります。
衝突試験の概要は?
JNCAPでの衝突試験は、どのように行われているのでしょう?
すべてを詳しく説明するには、長くなって難しいので、よく「リアルワールド」と言われる、実際の交通状況で起こる可能性の高い、対向車との衝突を模擬したオフセット衝突と、いわゆる追突の試験方法に関して、簡単に紹介します。
詳しく知りたい方は、文末の参考URLにアクセスしてみてください。
オフセット衝突は、時速64キロメートルの速度から、車体前面の40%相当の右半分が対向車とぶつかったという想定のもと、アルミで作られた障壁にクルマを衝突させます。実際の衝突事故は、多くがこの時速64キロメートル以下で起きていると、JNCAPでは説明しています。
いや、高速道路などでは時速100キロメートルを出すだろうという疑問もあるでしょう。もちろん、より高速での衝突の可能性もなくはありません。しかし、通常の運転状態であれば、衝突目前には、運転者がブレーキをかけて減速したり、ハンドル操作で回避しようとしたりする行動をとるため、実際の事故を調べると想像より低い速度で衝突している実態があるのだと思います。
追突は、時速32キロメートルで後続車が追突してきた状況を再現しています。こちらも、居眠り運転などにより減速せず衝突されれば、より高い速度からの追突も可能性としてはあり得ます。しかし、多くの追突事故は、運転者が遅ればせながらブレーキをかけ、減速しながら止まり切れなかったという事故が多いため、この速度での試験となっています。
これらの試験は、シートベルトを着用していることを前提としています。また、同一車格のクルマ同士の衝突を前提としているため、たとえば、軽自動車と登録車との衝突は考慮されていません。
より、現実の事故での被害軽減のために
軽自動車と登録車を実際にオフセット衝突させて、実験している様子
こちらは、軽自動車と登録車を実際に側面衝突させて、実験した様子
JNCAPにおいては、すべて同一基準で衝突安全性能が評価されているとはいえ、車格の違うクルマでの衝突は、まだ評価されていません。
そこで、各自動車メーカーは独自に、よりリアルワールド(現実の事故)に近づけるための衝突実験を行い、社内評価として公開しています。
例えば、軽自動車と2000ccエンジン以上の普通乗用車と、実車を使って実際にクルマ同士を衝突させるオフセット衝突(カー・トゥ・カー)試験を実施しています。
軽自動車メーカーは、消費者の懸念は熟知しており、カー・トゥ・カーのオフセット衝突などによって、車体の強度の確認と、乗員保護を確認しているのです。
ところで、事故現場を見たという方から、クルマの前後が大きくつぶれてひどかったという心配も寄せられています。それが軽自動車だと、よけいに不安になるでしょう。
昨今のクルマは、「衝撃吸収車体構造」を取り入れています。これによって、正面衝突もオフセット衝突も、また側面衝突や追突にも対応した車体となっているのです。
衝撃吸収車体構造とは、車体の周囲をあえてつぶれやすくした構造です。同時に、人が乗っている客室は、つぶれない頑丈な作りになっています。一つの車体で、つぶれやすい部分と、つぶれない頑強な部分とが同居しているのです。
つぶれやすい車体部分で、衝突のエネルギーを吸収します。もちろん、すべて吸収しきれるわけではありませんが、大幅なエネルギー吸収をするおかげで、客室内の乗員への負荷を抑えるのです。
したがって、事故現場のクルマの前後が大きくつぶれていると、いかにも衝突の衝撃が大きく感じられますが、あのつぶれが、乗員保護に役立っているのです。この点は、軽自動車も登録車も同じです。大柄な高級乗用車も、衝突すると想像以上に激しくつぶれます。
以上の説明で、すべてを安心することにはならないかもしれません。実際、交通事故は統計的にも減ってはいないのです。一方で、交通事故死者数は減少しています。これはすなわち、衝撃吸収車体構造の採用や、シートベルトの装着率の改善などに負うところが大きいと言えます。
ぶつからないクルマという安全策
交通事故発生件数・死者数・負傷者数の推移(昭和25年~平成23年)
出典:警察庁交通局交通企画課
万一の衝突の際に、より安全であることは望ましいですが、そもそも、衝突事故を起こさないですめばそれに越したことはありません。
「ぶつからないクルマ」という言葉がはやりましたが、危険を回避するための装備・機能が、軽自動車にも普及しはじめています。
軽自動車としては初めて、マイナーチェンジをしたダイハツ・ムーヴに「スマートアシスト」装着車が設定された。図は、そのうち「低速域衝突回避支援ブレーキ機能」の作動状況を示す。時速約4~30kmで走行中、衝突の危険が高いと判断した場合、危険を警報したのち、緊急自動ブレーキが作動。相対速度が時速約20km以内であれば危険を回避し、時速約20~約30kmでは衝突被害を軽減する
12月にマイナーチェンジをした、ダイハツ・ムーヴは、「スマートアシスト」と呼ばれる衝突回避システムを設定する車種を発売しました。これは、「低速域衝突回避支援ブレーキ機能」「誤発進抑制制御機能」「先行者発進お知らせ機能」「VSC&TRC」の四つをセットにした安全支援の装備です。
なかでも、低速域衝突回避支援ブレーキは、約4~約30km/hで走行中、前方車両との衝突の危険性が高い場合に、ブザーとメーター内のインジケーター表示で運転者に警告し、それでも衝突の危険性が非常に高まった場合に緊急ブレーキを作動します。相対速度が約20km/h以下の場合は衝突を回避します。相対速度が約20~約30km/hのときには、被害軽減を支援するというものです。
また、走行中の挙動を安定させる機能(ダイハツのVSCなど)を、全グレードに標準装備することも、最新の軽自動車からはじまっています。この機能は、コンパクトカー以上でも、まだ全車標準となっていない車種があります。
環境問題への取り組みから、ダウンサイジングの流れが生まれ、軽自動車への注目はさらに高まっています。そうしたなか、軽自動車の安全性への追求は、軽自動車以外の登録車に負けず劣らず前進しています。
そのうえで、運転者の安全意識が何より重要です。
クルマに乗るということは、いつでも被害者にも加害者にもなる可能性があるのだという戒めを、忘れてはいけません。
<モータージャーナリスト:御堀直嗣>
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